当たり前のことを、当たり前じゃない形でも ~PECSを使って~
以前からいつか書こうと思いつつ書かなかったPECSの話。
シロがあまり活用できてなかったこともあったのですが最近ようやっと軌道に乗ってきた感じなので、記事にまとめてみようと思います。
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・PECSとは?
PECSとはPicture Exchange Communication Systemの略、絵カード交換式コミュニケーションシステムのことです。
大きな特徴としては「自発的なコミュニケーションを促すことが出来る」という点。
相手からの声かけや質問、提案を待つばかりではなく、絵カードを手渡すことによって自ら確実に要求を伝えることが出来る。
言葉という普段私たちが当たり前に使っているツールを上手く使うことが出来ない子には非常に有効な意思疎通の手段であると言えます。
日本におけるPECS普及に尽力されている児童精神科医の門眞一郎先生のサイト「児童精神科医 門眞一郎の落書帳(http://www.eonet.ne.jp/~skado/index.htm)」内の「第3分冊 PECSに惚れ込んでいる私を知りたい方のために」の頁にとてもわかりやすく詳しく書かれていますので、良かったらこちらも。
(もしかしたらうまく飛べないかもしれません。その際はURLを直接貼ってください。ゴメンナサイ。)
・準備、そして教える。
まずは絵カードを用意しました。
絵カードはネットからも色々ダウンロードできますし勿論手作りも出来るのですが、うちは無難に購入しました。
http://www.pecs-japan.com/catalog/product_info.php?cPath=21&products_id=36
ピラミッド社の絵カード。
サイズも色々あるのですが、うちは携帯することを考えて小にしました。
次にブックの準備。
ブックは絵カードを収納するものです。
一緒に購入しても良かったのですが、ブックくらいは自分で作れそうな気がしたので挑戦しました。
100均で二つ穴リングのファイルとマジックテープ、二つ穴開けのパンチを購入。
中の台紙にマジックテープのハードのほうを細く切ってくっつけます。
カードの裏にはソフトのほうをぺたんと。
写真を見せたほうが早そうなので、こちら。
汚くて申し訳ないです・・・。
このファイルはもともとフォトアルバムとして売っているもので中に写真を挟む台紙が数枚付いていたので、それをそのまま絵カード収納用の台紙として使っています。
このような感じでよく使いそうなカードは収納しています。
表紙は後ほど。
さて、カードの用意は出来ました。
次はいよいよシロに使い方を教えます。
PECSを教える際は通常二人のトレーナーが必要になります。
一人は子どもに後ろから手を添えて、絵カードの選び取り→相手に手渡すまでを一緒に行うプロンプター、もう一人は絵カードを受け取って要求の対象を手渡すコミュニケーションパートナーです。
うちではPECS研修も受けて専門性の高い夫がプロンプター、普段シロの要求を受けることが多いであろう私がコミュニケーションパートナーになりました。
①夫が手を添えて要求のカードを選び、私に手渡す
②私は書かれているものを復唱し、シロに手渡す
③要求を伝えられたことを私と夫で褒める
最初は戸惑っていた様子のシロも要求が伝わることがだんだんわかってくると少しずつではありますが自ら絵カードを使用するようになりました。
・どのように使っているのか~シロの場合~
朝食の時の様子です。
これが先ほどのブックの表紙。
上段には横長にマジックテープ(ハード)が貼られています。
オレンジの台紙は表面にハード、裏面にソフトのマジックテープが貼られており、上段と同様下段にも貼られているハードのマジックテープの上にくっついてる状態です。
ちなみにオレンジの台紙は家で使わなくなったA4ファイルの表紙を切り取って角を落として作りました。
上段に貼られているカードは朝食のメニューです。
シロはまずこれを自分で台紙から表紙に貼ってスタンバイします。
そして朝食。
しばらくするとシロが用意するのがこれ。
(「ちょうだい」だけ様子が違うのは作ったカードだからです)
カード一枚だけなら直接手渡しで良いのですが、例えば↑のように複数のカードを使用する場合、オレンジの台紙を表紙から外して手渡せば複数の要求や文章を伝達することも可能になるわけです。
なのでシロはこれを貼ってオレンジの台紙をはがして私のところへ持ってきます・・・と言いたい所なのですが、実際はまだカードだけ手渡しです。
どうもオレンジの台紙の使い方がイマイチわかっていない様子。
まだまだ使いこなせてるとは言えませんが、こんな感じでシロ本人も楽しみながら使っています。
ちなみにこの写真、ぶれててわかりにくいのですが、オレンジに「みず」「おちゃ」「ちょうだい」のカードが貼られています。
これは「水でコップを洗ってそこにお茶を入れてちょうだい」ということです。
(朝、牛乳が入っていたコップをそのままお茶にも使いたがるのです。でも牛乳とお茶が混じるのは嫌だから一回洗え、と・・・)
ちょっとわかりにくいですね。
名詞のカードが多いので仕方ないのですが、動詞や形容詞なども徐々に取り入れていきたいところです。
・最後に。
「絵カードを使うことでかえって言葉が出なくなるのではないか」
今でもそういった話を時々聞きます。
私は専門家ではないのではっきりしたことを断言は出来ないのですが、絵カードを使うことがそのまま言語の遅れに繋がることはないと思います。
シロは間もなく4歳になりますが未だに「話す」というところに至っていません。
自閉とどのくらいの関連があるのか私にはわかりませんが、どうやら舌の動きが良くないらしく言語療法にも通い始めました。
それでもいつ話せるようになるのか、私は勿論専門家にもシロ本人にだってわかりません。
話せない子はコミュニケーションを諦めるしかないのか。
代替のツールがあるなら、そして本人に使う意思があるなら使えばよいのではないか。
外国の人と話すときに通訳がいれば円滑に会話が進むように。
絵カードもその他の代替ツールも、それ自体が悪いものではないのです。
使い方、なのだと思います。
シロがこのまま一生話せなかったとしてもかまわない、と言えば嘘になります。
ただ、言葉を話すことが出来なかったとしてもシロと「会話」をしたいと思うのです。
こんなことがあったよ。
うれしかった、悲しかった。
あれがほしい、こうしてほしい。
当たり前の「形」じゃなくても、当たり前の「会話」が出来たら嬉しいなと思うのです。
そして更に望むならば、当たり前じゃないことがいつか、当たり前の風景となりますように。